日常の仕事や活動を表す「おこなう」には、「行う」と「行なう」という二つの表記があります。
「行う」と「行なう」はどちらも正しい表記ですが、公用文で使用する際には特定のルールが設けられています。
この記事では、これらの表記の違いや、特に公用文での正しい使用方法についてやさしく解説します。
「行う」と「行なう」の表記の使い分け
一般的に使用される「行う」と「行なう」について、その意味の違いや使用法を詳しくご紹介します。
デジタル大辞泉では、「行う(行なう)」という表記が見られ、主に「行う」の使用が推奨されています。辞書の編纂規則に基づき、一般的に先に示される表記が優先されるためです。
送り仮名の規則によれば、語幹は漢字で、活用語尾はひらがなで記すのが基本です。
この原則に則ると、「おこなう」の活用形は「おこなわない」「おこないます」「おこなう」「おこなうとき」「おこなえば」「おこなえ」などとなり、日常の文章では「行う」の使用が推奨されています。
公用文における「行う」の正しい表記方法
公用文において送り仮名の付け方は、文化庁の『送り仮名の付け方』通則1に基づいて行います。この通則は、語の活用形に応じた表記を明確に定めています。
例えば、「憤る」の活用語尾は「る」、「承る」では同じく「る」、「書く」では「く」となります。
「おこなう」という動詞の場合、活用語尾は「う」ですから、公用文では「行う」と表記することが正しいとされます。
この表記基準は、公用文だけでなく法的文書、新聞、雑誌、放送といったさまざまな場面で用いられており、ビジネス文書や学術論文、契約書においても「行う」の形が推奨されています。
「行う」と「行なう」の公用文での取り扱いとその歴史的背景
公用文における送り仮名の使い方に関する詳細な指針は、文化庁の通則1で説明されています。この中には、「行う」と「行なう」という表記がどちらも許容されることが含まれています。
公用文では、活用語尾の前の音節を含む送り仮名を伸ばしても良いとされている例があります。これには「表す(表わす)」、「著す(著わす)」、「現れる(現われる)」、「行う(行なう)」、「断る(断わる)」、「賜る(賜わる)」などが挙げられます。
出典: 文化庁「送り仮名の付け方」単独の語1 活用のある語 通則1
このガイドラインに従い、「行う」が一般的な表記とされつつも、「行なう」も同様に公用文での使用が認められています。これは広く受け入れられている表記であり、誤解のリスクが低い場合に適用されます。
実際に、「おこなう」という動詞の使用が広範囲に及び、歴史的な背景も考慮すると、「行なう」とも表記されます。公用文では、場合によっては「行なう」の使用が適切であるとされ、これを誤りとは見なされません。
「行なう」という表記の歴史的背景
「行なう」という表記は、以前は公式な文書で使われていたという長い歴史があります。1959年に公布された「送り仮名のつけ方」内閣告示第一号では、動詞の送り仮名に関する明確な指示がありました。
第1項では動詞の活用語尾を送ることが定められており、例としては「書く」「読む」「生きる」「考える」が挙げられます。
一方で、特定の語について送り仮名を伸ばす例外も認められており、「表わす」「著わす」「現われる」「行なう」「脅かす」「異なる」「断わる」「賜わる」「群がる」「和らぐ」といった表記が許されていました。
出典:送り仮名のつけ方、昭和34年7月11日、内閣告示第一号
この告示によって、「行なう」という表記が正式に認められたのですが、1973年に新たな送り仮名の規則が導入され、以前の告示は廃止され、「行う」という表記に統一されました。
この改訂は、実際の使用経験や詳細な検討を経て行われ、言語の実用性や慣習が漢字と送り仮名の使用法に大きな影響を与えることが示されました。
「行う」と「行く」の文脈での使い分け
「行う」と「行く」は、それぞれ異なる活用形を持つため、文脈によって使い分ける必要があります。特に「行って」「行った」という言葉の形に注目すると、促音便という現象が発生し、音が短くなることがあります。
促音便は、特定の音節の後に「て」「た」「たり」が続く際に音が短縮される現象で、「待って」「飛んだ」「売ったり」が具体的な例です。
「行って」「行った」「行ったり」の発音が一見、区別がつきにくい場合がありますが、文脈から「おこなって」「おこなった」「おこなったり」(行う)か「いって」「いった」「いったり」(行く)かを判断できます。文中の単語や助詞の使い方から、どちらの意味で使われているかを見分けることができます。
たとえば、以下の文を見てみましょう。
「会議を行って、」と「図書館に行って、」 「式を行った。」と「山に行った。」 「会を行ったり、」と「市場に行ったり、」
左側の例は「行う」(おこなう)、右側は「行く」と読むことが推測されます。
しかし、以下のような場合には判断が難しいこともあります。
「私たちが昨日行ったイベントは楽しかった。」
この文では、「おこなった」か「いった」かの判別が直接的には難しいですが、一般的には文脈全体から解釈されます。
このように、文脈を読み取ることで正確に使い分けることができ、最新の「送り仮名のつけかた」ガイドラインでは、「行う」が基本とされつつ、「行なう」も許容されています。
使い分けと表記のポイント
この記事では、「行う」と「行なう」の適切な使い分けと表記法について解説しました。
- 【一般使用】
「行う」が一般的に広く使われています。 - 【公用文の基準】
公用文では「行う」と表記されることが多いですが、「行なう」も条件に応じて許容されます。 - 【表記の違い】
「行う」は現代の標準表記ですが、「行なう」は過去から引き継がれる形式です。 - 【文脈での判断】
文章の流れや使われる助詞に注意して、どちらの表記を用いるかを見極めます。
日常言語では「行う」を優先して使うのが一般的で、公用文でも「行う」が標準とされています。ただし、「行なう」も間違いではないため、その使い分けには文脈の理解が求められます。
このように、現行の規範に従いながらも、歴史的な表記が一部許容されていることを理解し、適切に使い分けることが大切です。