離島の人口減少が全国的な課題となる中、鹿児島県の十島村は令和6年2月末時点で人口が666名となり、移住対策の成果が表れている注目すべき自治体です。日本一長い村として知られる十島村の人口について、最新データと今後の展望を詳しく解説します。
十島村の人口の現状
令和6年2月末時点で人口666名を記録している十島村。最新の統計データから、その人口構成や特徴を詳しく見ていきましょう。
2024年最新の人口データ
2024年1月1日における十島村の総人口は666人(外国人を含む)で、男性が368人、女性が298人となっています。面積は101.14km²で、近年の人口は700人弱で推移している状況です。
そのうち65歳以上の高齢者は29.9%を占め、人口の3.4人に1人が65歳以上、6.7人に1人が75歳以上となっています。興味深いのは、出産や子育ての中心となる20歳~39歳の女性人口が58人で、総人口の8.5%を占めている点です。
島別人口分布
十島村は口之島・中之島・諏訪之瀬島・平島・悪石島・小宝島・宝島の7つの有人島で構成されています。少ない島で約60人、多い島で約130人の島民が暮らしており、各島で人口規模に違いがあります。
例えば、宝島の人口は131人で、そのうち15歳未満の子どもは31人で全体のおよそ2割を占めています。また、悪石島の人口は89人、世帯数は43世帯(2025年5月1日現在)となっています。
年齢構成と特徴
十島村の人口構成で注目すべきは、子どもの割合の高さです。十島村の子どもの割合は他の6つの島もほぼ同じで、県内全体の推計1割あまりと比べ、十島村で子どもが多いという特徴があります。
十島村の人口推移と変化
昭和45年の臥蛇島無人島化から現在まで、十島村の人口は大きな変動を経験してきました。その推移と背景にある要因を分析します。
過去20年間の人口変化
十島村の人口は激動の歴史を経験しています。昭和45年には臥蛇島が無人島になるなど、人口減少の一途をたどってきました。
その後も減り続け、平成22年には過去最低の657人となりましたが、近年は回復傾向にあります。十島村の2020年の総人口は740人で、5年前と比べると▲2.1%の減少でしたが、国立社会保障・人口問題研究所が予測した2020年人口より158人(27.1%)多く、予測よりかなり上振れしている状況です。
人口減少の要因分析
十島村の人口減少には、離島特有の構造的要因があります。国内が人口減少に向かう中で、十島村は他の地域よりも条件不利な状況にあります。
主な要因として、以下が挙げられます:
- 交通アクセスの制約(フェリーは通常週2往復のみ)
- 就業機会の限定(農林水産業などの一次産業が中心)
- 生活インフラの制約(村内にはスーパーやコンビニエンスストアがない)
他の離島地域との比較
十島村は県内の市町村の中でも人口増加率が高い地域として注目されています。日本が人口減少社会となった平成の時代、離島の十島村でこの成果を達成したのは、全国的に見ても稀有な事例です。
十島村の地理的特徴と人口への影響
南北約160kmに及ぶ「日本一長い村」としての地理的特徴が、人口分布や生活にどのような影響を与えているのかを探ります。
7つの有人島の特徴
十島村は、屋久島と奄美大島の間に、有人七島と無人島五島からなる南北約160kmという「南北に長い村」です。十島村は最北の口之島から最南の横当島までの距離は直線で約160kmで、「日本一長い村」とされるという地理的特徴があります。
各島の特色:
- 口之島:400年以上口伝で伝えられた狂言が有名
- 中之島:村の中心的な島で、トカラウマ(鹿児島県天然記念物)が生息
- 悪石島:平成30年にユネスコ無形文化遺産に登録された仮面神「ボゼ」で知られる
- 宝島:人口131人で、15歳未満の子どもは31人
アクセスの困難さと人口分布
鹿児島港から各島への村営船「フェリーとしま2」は週2往復で、往路復路ともに村内全ての有人島に寄港します。このアクセスの制約が、各島の人口分布に大きく影響しています。
鹿児島市からの航路距離は、北端(口之島)まで204km、南端(宝島)まで334kmという距離的な制約も、人口動態に影響を与えています。
各島の主要産業と人口
農林水産業などの一次産業が中心で、畜産業(子牛生産)や農業・漁業等により生活が営まれています。各島の産業構造が人口の安定に重要な役割を果たしています。
人口減少への対策と取り組み
「第二の臥蛇島をつくらない」という強い決意のもと、十島村が実施している人口対策の具体的な内容を紹介します。
鹿児島県の離島振興策
鹿児島県では離島地域の振興に向けた様々な施策を展開しています。十島村の地理的条件等のハンディを考慮し、妊婦健診に伴う自己負担の軽減や出産支援など、きめ細かな支援を実施しています。
十島村独自の人口対策
肥後正司村長は平成24年の就任し、人口問題を最重要課題に位置づけました。「平成の30年で有人島を無人島にしない。島民と一緒に人口問題を考えてきた」という強い決意のもと、様々な施策を推進しています。
「第二の臥蛇島をつくらないこと」が最重要課題に位置付けられ、数々の手が打たれてきました。具体的には:
- 定住促進のための定住促進生活資金等交付金
- 全島において子育て支援施設や郵便局・ゆうちょ銀行(簡易郵便局含む)を整備
- 全島に海底光ケーブルを引き、全戸に行き渡るよう順次、工事を進めています
移住支援制度の現状
村の動きは功を奏し、近年は転入者が転出者を上回る効果が現れています。
十島村内において、農林水産業等に従事した日数に応じて奨励金を交付する制度があり、後継者及び新規参入者には最大5年間、単身で従事した場合は1日5千円~7千円、家族で従事した場合は1日8千円~1万円の支援を受けることができます。
また、子育てに要する費用の一部を助成し、ミルクは生後1歳6ヶ月に到達する月まで(月額4,000円上限)、紙おむつは生後3歳に到達する月まで(月額7,000円上限)の支援も行っています。
十島村の将来人口予測
国立社会保障・人口問題研究所の最新予測と、それに基づく十島村の将来展望について解説します。
国立社会保障・人口問題研究所の予測
国立社会保障・人口問題研究所のもっとも新しい「将来推計人口(2023年12月公表)」によると、今後2020年から2050年までには▲28.1%減少し、約500人となる見込みです。
2050年の平均年齢は、2020年の46.6歳から7.9歳上昇し、54.5歳となると予測されています。
持続可能な村づくりへの課題
十島村が直面する主要な課題は以下の通りです:
- 高齢化の進行:高齢者(65歳以上)と生産年齢人口(15~64歳)の比率は、1対1.6
- 若い女性人口の確保:20歳~39歳の女性人口が全国平均(10.3%)より低い8.5%
- 産業基盤の強化:獲る漁業から付加価値を増大する鮮度保持・出荷技術の習得体制を強化
専門家による分析
移住者らは島の資源を活用した産業振興にも貢献しており、宝島の移住者は売り物にならないバナナで加工品を作り、島バナナの茎でつくる芭蕉布を復活させ、雑貨を作るなど新たな価値を創造しているという事例が報告されています。
よくある質問
十島村の人口に関してよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
Q: 十島村で最も人口が多い島は? A: 宝島の人口は131人で、7つの有人島の中で最も人口が多い島の一つです。
Q: 移住を検討する場合の支援制度は? A: 農林水産業等に従事した日数に応じて奨励金を交付する制度があり、後継者及び新規参入者には最大5年間の支援があります。また、子育て支援として、ミルクやおむつ代の助成も受けることができます。
Q: 十島村の教育環境は? A: 十島村の学校は、目の前の先生とマンツーマンで分かるまで学習できます。また小学校と中学校は併設しており、異学年の仲間とのふれあいもできます。
Q: 医療体制はどうなっている? A: 有人各島に診療所があります。救急患者が発生した場合には、ドクターヘリや県防災ヘリにより、原則、奄美大島の病院へ搬送されます。
専門家の視点
離島研究や地域振興の専門家から見た十島村の人口対策の評価と今後の展望についてご紹介します。
離島研究の専門家によると、十島村の人口増加は全国的にも稀有な成功事例として注目されています。「最近盛り上がりつつある観光など、テーマに応じて7つの島が連携し、共に発展するサイクルをつくり、来てもらいやすく、働きやすい島にしていきたい」という村の方針が、持続可能な発展に向けた鍵となっています。
地域振興の観点から見ると、「住民総意による村づくり」を村政運営の基本理念とし、「安心安全な村づくり」・「交通体系の強化対策」・「産業振興対策」・「定住促進対策」・「教育環境」・「地域防災対策」・「行財政対策」を主要政策として取り組んでいる点が評価されています。
まとめ:十島村の人口の現状と未来への挑戦
十島村の人口は、令和6年2月末時点で666名となり、全国的な人口減少トレンドに逆行する成果を上げています。2020年の人口予測を27.1%上回る実績は、村をあげての人口対策の成果と言えるでしょう。
しかし、2050年までに約500人となる見込みという将来予測を踏まえると、継続的な取り組みが必要です。「日本一長い村」として独特の地理的特徴を活かしながら、移住促進、子育て支援、産業振興を総合的に進めることが、持続可能な村づくりの鍵となります。
十島村の人口対策は、他の離島地域のモデルケースとして、今後も注目されることでしょう。